2021年東京大学理系数学(第4問)~二項係数の満たす合同式を母関数で導く
今年の東大理系数学の入試問題で最も注目を集めたのは、おそらく第4問でしょう。これは二項係数の合同式
に関する問題でした。
東大はこれまでに何度も、二項係数についての問題を出題していますが、新しい切り口での出題に新鮮な驚きを覚え、楽しい気持ちにさせられたのは、きっと私だけではないでしょう!
ところが、この合同式を示すための誘導はスッキリとはしておらず、また (3) においては 「 が偶数」という、不可解な条件が設定されていました。仮にこれらの誘導に従って問題を解いたとしても、腑に落ちない感覚が残ります。実はこの問題は、合同式を利用することでより本質に根差したクリアーな解答が可能になるのです!
まず、合同式
に注目します。ここで多項式どうしの合同式は、 を整数、 と を の整数係数の多項式とするとき、
の各次数の係数がすべて で割り切れる 」
と定義します。
いま、 を 以上の整数として (ア) を 乗し、 倍すると、 mod において、
が成立します。両辺の係数比較を行うと、 に対して
を得ることになり、第2式において、 とおくと
が得られます。よって冒頭の合同式を導くためには
を示せばよいことになります。
ここで等式
を考えましょう。 を 以上の整数として、両辺を 乗したとすると、二項定理を用いて
という合同式が導かれます。 の偶数次の部分に注目して の係数を比較すると、
が分かります。 の場合は により、やはりこの合同式は成立しています。
よってこれを (イ) と組み合わることで、 以上の整数 に対して合同式
が成立することが分かります。
以上の議論によれば、東大のもともとの問題の (3) で設定されていた、「 が偶数」という条件は実は必要ないということも分かります。多項式の合同式を使った議論は高校生には難しいであろうという判断のもとで、おそらくはあのような問題の流れになったのであろうと推測できます。
なお、二項係数の満たす合同式については様々な結果が知られています。私の好きな本である
D.フックス, S.タバチニコフ(蟹江幸博 訳) 『本格数学練習帳1 ラマヌジャンの遺した関数』 岩波書店 2012
の第2講には、「2項係数の算術的性質」をテーマとして二項係数についての数々の面白い公式が書かれています。例えば (ウ) に関連して
が紹介されていますし、
のときは (ウ) が最良の結果であること、すなわち
が成立しないような自然数の組 が無限個存在する。
が演習問題になっています。
二項係数の満たす合同式について、さらに研究を深めていくと面白いのではないでしょうか。